日本全国で空き家問題が深刻化しています。総務省の住宅・土地統計調査によると、全国の空き家は約900万戸を超え、住宅全体の13%以上を占めるまでに増加しました。特に都市部では老朽化による放置物件、地方では相続や人口減少に伴う空き家が目立ち、社会全体の課題となっています。
そのなかで「空き家の買取サービス」を利用して処分する人が増えています。仲介による一般売却よりも早く現金化できる点が最大のメリットですが、一方で注意点を理解せずに契約を進めると、思わぬ損失やトラブルにつながる可能性があります。
本記事では、空き家を安心かつ有利に処分するために押さえておきたい 注意すべきポイント5選 を詳しく解説します。
空き家買取とは?仲介売却との違い
空き家を処分する方法には大きく分けて「仲介売却」と「不動産会社による直接買取」があります。
- 仲介売却:不動産会社が仲介し、一般市場で買主を探す方法。
- 高値で売れる可能性がある
- 売却までに時間がかかる
- 直接買取:不動産会社が空き家を直接買い取る方法。
- 短期間で現金化できる
- 価格は相場の6〜8割に下がる
つまり、「高く売りたいなら仲介」「早く処分したいなら買取」と目的によって使い分けるのが基本です。
空き家買取で注意すべきポイント5選
① 買取価格は市場相場より低いことを理解する
不動産会社が買取した物件はリフォームやリノベーションを行い、再販して利益を得ます。そのため、査定額は再販リスクや改修費を差し引いた水準で提示され、通常は市場価格の6〜8割程度になります。
たとえば、仲介で2,000万円で売れる可能性がある物件でも、買取では1,200〜1,600万円程度に下がることが一般的です。「相場より低いから損をした」と感じるのではなく、「時間と手間を買った」と考えることが重要です。
② 複数の業者に査定を依頼する
空き家買取の最大の落とし穴は、最初に提示された査定額をそのまま信じて契約してしまうことです。不動産会社ごとに得意なエリアや物件タイプ、再販ノウハウが異なるため、同じ物件でも査定額に数百万円の差が出ることがあります。
- 地元密着の不動産会社
- 空き家再生を専門とする会社
- 大手買取業者
少なくとも3社以上から査定を取り、条件や対応を比較することが必須です。中には残置物処分や測量費用を負担してくれる業者もあり、単純な金額比較だけでなくトータルで有利な条件を選ぶことが大切です。
③ 契約条件を細かく確認する
買取契約では金額だけでなく、契約条件に注意が必要です。特に注目すべき点は以下の通りです。
- 残置物処分:家財道具を残したまま売却できるか
- 瑕疵担保責任:売却後に雨漏りやシロアリなどの不具合が見つかった場合、売主が責任を負わなくてよいか
- 引渡し条件:現状渡しか、簡易修繕が必要か
契約書に曖昧な表現があると、後に「追加費用を請求された」「引渡し後にトラブルが起きた」といったリスクにつながります。必ず契約内容を細かく確認し、納得できない場合は修正を依頼しましょう。
④ 税金や費用のシミュレーションを行う
空き家を売却すると、利益に応じて 譲渡所得税 や 住民税 が課されます。思わぬ税負担が発生し、手取りが想定より大幅に減ってしまうこともあります。
ただし、空き家には税制特例が設けられており、条件を満たせば「相続空き家3,000万円控除」が利用できます。これは、昭和56年5月31日以前に建てられた耐震性のない住宅を相続し、3年以内に売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。
また、老朽化物件の解体に伴い補助金や助成金が利用できる場合もあります。売却前に専門家に相談し、どのくらいの税負担やコストが発生するのかを必ずシミュレーションしておきましょう。
⑤ 補助金や制度を活用して有利に進める
空き家の処分や活用には、自治体や国の補助制度を使える場合があります。
- 解体補助金:老朽化した空き家を解体する際の費用を一部補助
- 耐震改修補助:耐震リフォームの費用軽減
- 省エネ・バリアフリーリフォーム減税
- 住宅セーフティネット制度:低所得者向け住宅として登録すれば改修補助が受けられる
これらを活用すれば、売却にかかるコストを減らし、結果的に手元に残る資金を増やすことができます。
空き家買取を成功させる流れ
空き家をスムーズかつ有利に処分するためには、感覚や思いつきで進めるのではなく、順序立てて進めることが大切です。以下の流れを押さえておけば、トラブルを避けながら資産価値を最大化することができます。
1. 現状確認
まずは、建物の状態や立地条件をしっかり確認することから始めましょう。築年数や劣化の度合い、耐震性の有無、周辺の不動産需要などを把握しておくことで、その後の査定や売却方法の判断材料になります。老朽化が激しい場合は解体を前提に考える必要がありますし、駅近や商業地に近い立地であれば高値売却や民泊活用の可能性が広がります。
2. 査定依頼
次に、不動産会社へ査定を依頼します。このとき、1社だけに任せるのではなく、必ず複数社に相談しましょう。同じ物件でも業者によって得意分野や再販戦略が異なり、提示される価格や条件に大きな差が出ることがあります。最低でも3社以上に依頼し、相場感を掴むことが成功の第一歩です。
3. 条件比較
査定額が出揃ったら、金額だけでなく契約条件を細かく比較します。残置物をそのまま引き取ってくれるか、瑕疵担保責任を免除してもらえるか、引渡しまでのスケジュールは柔軟かなど、条件面での違いを見極めましょう。数字だけに注目すると後で思わぬ負担が生じる可能性があるため、トータルで判断することが重要です。
4. 税金・補助制度を確認
売却に伴って譲渡所得税や住民税が発生する場合があります。とくに相続物件では「相続空き家3,000万円控除」などの特例を利用できることがあり、節税につながります。また、老朽化物件の解体にあたっては自治体の補助金や耐震改修助成を活用できるケースもあります。税理士や行政窓口に相談し、コストを抑えながら最大限の利益を確保しましょう。
5. 契約・引渡し
最終的に条件に納得できる業者と契約を結びます。契約内容を必ず確認し、不明点は事前に解消しておくことが大切です。引渡しまでの流れや支払いスケジュールも明確にし、安心できる形で取引を進めましょう。
まとめ
空き家買取は「早く」「手間なく」現金化できる反面、注意すべき点も多くあります。
- 買取価格は相場より低い
- 必ず複数社に査定依頼をする
- 契約条件を詳細に確認する
- 税金・費用を事前にシミュレーションする
- 補助金や制度を活用する
これら5つのポイントを押さえることで、空き家買取を安全かつ有利に進めることが可能になります。空き家は放置すれば「負の遺産」ですが、正しい知識を持って動けば「収益資産」に変わります。
所有者として後悔しない選択をするためにも、まずは複数業者に査定を依頼し、制度や税制をしっかり確認することが成功の第一歩となるでしょう。